しあわせの径~本とアートと音楽と

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上間陽子の「海をあげる」が本屋大賞を受賞しました!

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2021年の本屋大賞のノンフィクション本大賞に、上間陽子の「海をあげる」が決まったそうです。

ということで、以下に、2021年4月に読了した私のレビューを紹介したいと思います。私のレビュー記事では何だかよく分からないと思いますが、よかったらぜひこの本を読んでいただきたいと思います。

海をあげる  上間 陽子 (著)   筑摩書房

2020年秋に上梓された上間陽子のエッセイ「海をあげる」のご紹介。

書評やツイッターで「読むべし」との意見が多かったので「読みたい本」に並べておいて、半年後のいま読了した。

本書は、上間が「webちくま」で連載していたエッセイをまとめた本で、12編からなる。

巻頭の「美味しいごはん」と最終章の「海をあげる」は、本書のための書下ろしである。ずっと謎だった、タイトルの「海をあげる」という意味は最後の最後に解る。

「美味しいごはん」は東京でのなんともきつい内容のお話で、その後の著者が沖縄に戻ってからの話を読み進めるうちに、最初の1編は「要るか?」と、こころに引っかかっていた。

琉球大学の教育学研究科の教授をしている著者は、未成年の少女たちの支援や調査に携わっていて、その少女たちの話が中心に置かれたページと、沖縄の基地問題や、著者自身の家族のエピソードなど、身の回りの話が大半である。

身の回りの話と言っても、ほんわかしているわけではなく、少女たちの壮絶な半生や上間自身の私小説みたいな身の上話を読むと、人生いろいろだけど似ているところも多くあって読ませる・考えさせるエピソードが連なる。

人は、「おおよそ」同心円の人生を生きているような気がする。でもちょっとズレている中心は、円自体が大きくなるとかなり「いろいろ」違ってくる。いい人に出会ったり出会わなかったり、いい本に出会ったり出会わなかったり、エトセトラ…エトセトラ。

なんの覚悟もなく読み始めたので、ずっと著者に畏怖を感じていた。でもそれは自分への言い訳に近い感情だった。中途半端な私は、体内に「海をあげる」という名の人工骨を入れて、余生を生きていこうと思う。

本書は著者の愛娘風花ちゃんが多く登場するが、彼女が中学生くらいになって本書を読んだらどんな感想を持つだろうかと思わずにはいられない。いいかあちゃんに育てられてしあわせだったと思っているのだろう。

最後まで読んで、もう一度巻頭の第1編を読み直したが、この章「要るか?」という思いは払しょくされた。

 

上間陽子
1972年、沖縄県生まれ。琉球大学教育学研究科教授。普天間基地の近くに住む。1990年代から2014年にかけて東京で、以降は沖縄で未成年の少女たちの支援・調査に携わる。2016年夏、うるま市の元海兵隊員・軍属による殺人事件をきっかけに沖縄の性暴力について書くことを決め、翌年『裸足で逃げる 沖縄の夜の街の少女たち』(太田出版、2017)を刊行。ほかにも著書多数。現在は沖縄で、若年出産をした女性の調査を続けている 

目次
美味しいごはん
ふたりの花泥棒
きれいな水
ひとりで生きる
波の音やら海の音
優しいひと
三月の子ども
私の花
何も響かない
空を駆ける
アリエルの王国
海をあげる