直木賞山本賞ダブル受賞・佐藤究の「テスカトリポカ」を読みました

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テスカトリポカ  佐藤 究  (著)  KADOKAWA

今回は、第34回山本周五郎賞と第165回(2021年上半期)直木賞をダブル受賞した作品、佐藤究(きわむ)の「テスカトリポカ」のご紹介。

山本賞は1988年創設で直木賞は1935年創設のエンターテイメント小説の大きな登竜門だが、ダブル受賞は2004年に受賞した熊谷達也の「邂逅の森」以来史上2作目という快挙だ。

著者が参考にした文献は巻末に紹介されているが、その数は50冊にも及び、小説を書くために参考にしていなければこういう書籍を読む人物は要注意か監視対象人物となってしまうような危ない、しかし興味深い書籍が多く並んでいる。

アステカの神テスカトリポカの祭祀をつかさどる血筋の持ち主として祖母に育てられた男バルミロは、メキシコでの麻薬組織間の抗争に巻き込まれ国を捨て、流れ着いた日本の川崎で復讐のための資金を稼ぐための凶悪で強大な組織によるビジネスを始める。

もうひとり、メキシコ人の母と川崎のヤクザの間に生まれたコシモという少年の物語も並行して描かれていて、子どもの頃から体格が並外れて強大なコシモが成長していく過程も、これまた面白く読める。

ここまでで、多くの頁を消費するストーリーになるのだが、凶悪な麻薬組織やドラッグ売買グループや反社会集団を取材できたとしても命の保証はないので、参考文献をもとに凶悪な組織を創り上げる著者の想像力が素晴らしいくて読み手は愉しめる。

そして、メキシコ人の血を引くバルミロとコシモが川崎で遭遇し、ふたりで巨大なマネーを生み出す血塗られたビジネスを進めていくノワール(暗黒)ストーリーがスリリングだ。

ここに出現する凶悪なビジネスは、私がはじめて接するピースで組み上げられているが、Netflixなどでさまざまな凶悪ドキュメンタリーを見ていると、こういうことも地球のどこかで行われているだろうと想像できてしまう。いやはや、はじめ神が創りたもうた人間は、だんだん神に近づいていってしまっている(違うかw)。

しかし、最後はほぼ私が想像したとおりの筋書きになって満足できたが、そうならなくてもとても面白い人間ドラマを見ることができ納得感はあっただろう。

もう少しディテールを省略して、100ページくらい短くしたらもっとドライブ感があってスピーディーな切れ味があったと思うが、文庫化もされるだろうし、才能ある書き手だからここまで書き込んだのだろう。

直木賞の選考過程で、これは受賞に相応しいのかと否定的だったのは主に男性の選考委員だったのが面白い現象で、伊集院静や北方健三、浅田次郎は受賞に消極的意見だったようだ。一方で桐野夏生宮部みゆき、三浦しおん、角田光代林真理子が賛成派だったようだが、年配の著名な小説家であっても、最近の男は型にはまったスケール感のなさが一般的で、何だか象徴的なエピソードであった。

そういった意味でも、佐藤究の登場は日本のエンタメ小説の新たな息吹になるような気がして楽しみなのだった。

私のように予備知識なしで、エンターテイメント作品として楽しんでいただきたい一冊である。