考えて、考えて、考える 藤井 聡太、丹羽 宇一郎 講談社
19歳の藤井聡太と82歳の丹羽宇一郎の対談が「考えて、考えて、考える」という本になった。
丹羽は、藤井と同じ愛知県出身で、伊藤忠の社長・会長を歴任し、民間から初めて中国大使になったお方。その経歴にもかかわらず、2018年まで続いたTBSの「時事放談」では、時の政府に痛烈な批判ができる自由人で、私のその番組でしか彼にあったことはないが大陸のように大きな人だとずっと思っている。
その丹羽が、私の知りたいことを割とストレートに藤井聡太に訊いてくれて、楽しい読み物だった。
編集はしてあるのかもしれないが、幼い頃の思い出や、旅の経験や、読んだ本(書籍名)や、学業のことや、趣味、家族、恋愛などなど隠されることなく書かれていて、将棋だけでなく藤井聡太という人間がどうやって形成されたのかが丹羽と私の共通する思いがして楽しかったのだ。
藤井は、普通の19歳より少し大人びた知性のある青年で、そういう青年は珍しくないと思うのだが、この対談から浮かび上がってくる将棋盤の前に座る彼の心構えを知ると、「勝つことより大切なこと」が分っている人なのだなと感心してしまう。19歳で長年修行を重ねた大僧正のように悟れるというのは、並外れた才能なのだと思う。
丹羽が引き出すエピソードの数々から、彼の三世代同居の家族、小さい頃に通った将棋教室、師匠の杉本昌隆とその一門、入学した中高一貫校、日本将棋連盟、プロ棋士たち、マスメディアがことごとく彼を育てたというか潰さなかったことに奇跡的な運命も感じる。
私は藤井聡太の対局を毎局楽しみしているが、長時間よくもあれだけ集中できるものだと感心し「藤井君には、散歩してほしいなあ」と声に出してしまうことがあるが、丹羽も同じ思いだった。
丹羽宇一郎は、藤井聡太に読書、散歩、音楽、旅を勧める。そして、いまのまま自由であってほしいと告げるのだった。
藤井聡太が天才的なのだとしたら、誰にも侵されない潰されない運命を持った自由な人間だからかもしれないと思うのだった。