おばちゃんたちのいるところ-Where The Wild Ladies Are 松田 青子 中央公論新社
自身2冊目の松田青子(まつだ あおこ)。前に読んだのは妊娠子育てのエッセイ「自分で名付ける」。今度は小説「おばちゃんたちのいるところ」。
1年半ほど前、2020年の「TIMESが選ぶ今年の必読書100冊」のなかに、本作を含む日本の女性作家4人の作品が選ばれていて、松田青子という作家を初めて知る。
そして、昨秋には「おばちゃんたちのいるところ」の英訳版が、「世界幻想文学大賞」の短編集部門で受賞したという快挙の報せ。
例によって事前情報を全く入れずに、そして「世界幻想文学大賞」を受賞していることを失念していて本書を読み進めていったら、へぇーファンタジーかと思い、あっホラーでもあるのか?と気づいて、裏表紙のあらすじを読んでそのことをようやく納得。
17編の短編がずらりと並んでいるが、それぞれはごく短い。
日本の怪談や古典や民話や落語などの女主人公、お岩やお菊やお露やお七などが次々に現代によみがえって、あらっ、いまでは男にも「ガラスの天井」があるの?と嗤ったり不思議がったりする。
そういえば怪談の主人公は、古い男社会にいたぶられた女や世間に恋路をじゃまされる女ばかりが登場するが、「私たちは経験済みだけれど、現代は男も大変なのね」と、はっきり言わないまでもそういう雰囲気を全編に漂わせる。
その彼女たちの経験が現代にも役立ったりして、女性だけで楽しそうにツルんでいてうらやましい。ただし、女は依然大変で、おじさんたちは「ほとんどクズ」だと教えてくれる(知ってるけど)。
文体は軽やかだし悪党は出て来ないからストレスは感じないけど、読みようによっては深くて重いものが横たわっている。これ、そういうところが海外で評価された所以かもしれない。
テーマはかなり重いかもしれないけれどさらさらと肌触りが良いし、全17編の構成の妙もあり、読み応えがあるけど読後感はさわやかである。
本書で、だいたいはクズと言われた私たちおじさんにも楽しめるのだった。