英ロンドンのナショナル・ギャラリーで、化石燃料使用に反対する若者がゴッホの「ひまわり」(1888年)にスープをかける出来事がありました。
若者は、環境活動団体「ジャスト・ストップ・オイル」に所属する女性で、缶入りのトマトスープをゴッホの絵にぶちかけましたが、ガラスの額入りだった作品自体に被害はなかったそうです。
この同様の抗議はその後もヨーロッパの美術館で繰り返され、オランダの美術館でフェルメールの「真珠の耳飾りの少女」にトマトソース、ドイツの美術館ではモネの「積みわら」にマッシュポテトの被害に遭いました。パリのオルセー美術館ではゴッホの自画像の被害は未然に防がれたようです。
そして今月の4日、ゴッホ展を開催中のイタリア・ローマの宮殿で、抗議団体はゴッホの「種まく人」(ゴッホが尊敬したミレーの作品を模した絵画)に野菜スープをかけた後、化石燃料を利用し続けることに抗議して「芸術を守りたいなら、私たちの未来も守るべきだ」などと訴えました。
さいわいにも、いずれの作品も保護ガラスに覆われていたために実害はありませんでした。
誰もが知る超有名な作品を狙ったことと、作品自体に実害を及ぼさないということも計算に入れた抗議活動だったようです。
この事件がどれだけ日本で関心を買ったか分かりませんが、日曜画家の絵が被害に遭ってもニュースになりませんから、世界的に有名な作品を狙い定めた悪しき抗議活動で世界中にインパクトを与えたことは彼らには効果的だったことでしょう。
私も初めてこのニュースに接したときは、ショックでしたし抗議の仕方に憤りも覚えましたが、それが彼らのねらいだったのでしょう。
フェルメールの絵を汚した若者は、実刑1か月だったそうですが、もう少しましな抗議の仕方がなかったのでしょうか。地球環境も、人間の英知を結集した芸術作品も同じくらい尊いものだと思いますので、大切に守り育てるべきではないでしょうか。
それにしても、地球温暖化などの環境問題は、特に若い世代にとっては身近な恐怖に感じられても仕方がないところまで来てしまった感がありますので、直接的な破壊行動による抗議活動はもうやめにして、環境問題を真剣に話し合ってもらいたいと思います。
ところで、このニュースをみて日本の国宝絵画の心配をしてしまいました。
いま開催中の東京国立博物館創立150年記念 特別展「国宝 東京国立博物館のすべて」では、トマトスープで簡単に傷つけられる作品、たとえば長谷川等伯の「松林図屏風」(1595年頃・国宝)のような作品が多く展示されるはずですから心配してしまいました。調べてみたら、きちんとガラスケースに収められて展示されていたようですから安心しました。
そういえば、かつて見たことのある日本の屏風絵などの素晴らしい作品は、どこの美術館でも空調の行き届いたガラスのショーケース内で展示されていたことを思い出しました(あたりまえか)。ですから、きっといつまでも、地球が滅びるまで私たちの眼を楽しませてくれることでしょう。
ということで、地球も芸術も永遠に不滅であってほしいものであります。