上の写真は、将棋第35期竜王戦のタイトル防衛を果たした日の翌朝の藤井聡太竜王です。
竜王戦はまだ35年の歴史の読売新聞主催の棋戦ですが、その前にあった「十段戦」というタイトルを引き継いだ形で始まった棋戦です。
賞金額が4千万円台と棋戦最高額を誇るタイトルで、名人戦と並ぶビッグな2代タイトルのひとつです。
その竜王戦を、昨年奪取した藤井聡太五冠が今回初防衛を果たしました。
タイトル戦の7番勝負で、過去2敗を喫したことのなかった藤井竜王が、この棋戦では4勝2敗で防衛を果たしました。
ファンとしては、第6局目で負けてしまうと3勝3敗のタイに持ち込まれるので、藤井竜王を信じてい入ますがちょっとドキドキしてしまう対局でした。
最終戦となった対局の2日目の藤井の最初の一手でちょっとした事件があって、解説者やAIが予想する候補手にない一手を藤井が指しました(4六飛車)。
この一手で、AIの勝率確率は60対40から一気に50対50になってしまい、勝敗の形勢で「藤井優勢」が「双方互角」になってしまいました。
攻撃にも守りにも強い飛車が取られてしまう道筋を選んだ藤井の一手で、対戦相手の広瀬九段も1時間の長考を余儀なくされました。
AIは先の先まで読んで50対50の判定をした一手でしたが、おそらく地球上で誰一人として予想していないだろうという手を指されたことで、互角に持ち込んだはずの広瀬は「えっ」と思って長考したのだと思います。
この一戦の数日前の棋王戦敗者復活準々決勝でも、中盤藤井は伊藤匠五段を相手にAIの候補手にない一手を指しました(4四歩)。
その一手で相手の伊藤が優勢となり形勢が逆転しましたが、伊藤が「えっ」と思って長考している間にAIも長考した結果「一旦伊藤優勢としたけどやっぱり藤井優勢」判定に覆ったというケースがありました。
竜王戦も棋王戦でも、要するに藤井はAIが考えつかない一手を指してしまったのでした。ネットではそれを「AI超え」と藤井を称賛する声が上がりましたが、AIが数百億回も試行錯誤して考えて「ああやっぱそのFujiiの一手はいいかも」という結論に至るのでした。
AIを使って研究に研究を重ねて対局するプロの棋士たちは、かつての誰かが指した最善手をAIでの研究から導き出して記憶しておいて、本番対局の際に自分の脳に伝えて将棋の駒を動かしています。ですから指される駒たちは立て板に水の如くすらすらと動いていきますが、藤井聡太と対戦していると時々対戦相手が「えっ何それ?」と手を止める一手がどこかの地点で現れ出でて楽しくなってきます。
私は観る専門の将棋ファンになりましたが、対戦相手や解説者やAIが「えっ何それ?」という一手が藤井五冠の指先から描き出される一瞬を、芸術作品のように楽しんでいる将棋ファンでもあります。
12月8日は、棋王戦(タイトル保持者は渡辺明名人・棋王)の挑戦者決定戦の準決勝戦が予定されており、藤井5冠対羽生善治九段の対局があります。二人は来月から始まる王将戦のタイトル戦(2日制7番勝負)で相まみえますが、その前哨戦となります。
20歳過ぎればただの人となってもらったら困ると思っていた藤井五冠ですが、AI超え棋士となってまだまだ進化し続けています。