エスキースとは絵画制作のための下絵のことだが、この物語の真ん中にある肖像画はそれを描いた画家により「エスキース」と名付けられた。
この小説物語は、オーストラリアのメルボルンで始まる。この街で出会ったアートに携わる男女3人の半生が、短編小説のように連なっていく構成で読ませてくれる。
「連なって」としか言いようのないストーリーで、それ以上書くとネタバレになるが、著者の執筆中に登場人物たちがひとりでに動いていってしまうのではなく、著者がコントロールした巧妙な構成通りのエピソードが時系列に置かれている。絵画で例えると、エスキース通りの本画がそこにあると言えよう。
各編には「赤と青」がさまざまな形で登場する。表紙にもそれを見て取れる。「こんなにあるんだ」と思わせられる世の中の青と赤が各編にたっぷり塗り込められているが、「赤と青」が重要なキーワードだったのだと後で気付かされる。。
6編目になるエピローグでは、読み手に引っかかっていたいくつかの謎が回収されるのだが、「えっ」とか「やっぱり」と思いながら気になっていたところを読み返すことになる。
読了後、不協和音のないピアノの調べのように端正なサウンドが全てのページに漂っていて気持ちがいい。でも、がさつな私にはちょっと整い過ぎているとも感じさせる。
ビル・エヴァンスの調べは好きだけど一生聴いていたいとは思わない。それとちょっと似た気持ち。
でも読めばみな幸せになるんだろうな。本屋さんも同じだったようだ!
|