しあわせの径~本とアートと音楽と

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ジャズ好きが選んだベスト3「ワルツ・フォー・デビイ」 「カインド・オブ・ブルー」 「サキソフォン・コロッサス」

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いま放送中の朝ドラ「カムカムエヴリバディ」では、ジャズトランペット奏者の主人公の夫が、イップスみたいになってしまって楽器演奏をやめてしまっていますが、このまま回転焼屋のおっちゃんになってしまうのでしょうかね。

ということで、ジャズの入門にもふさわしい名盤のお話を少し。

最近の私は、寝る前にAmazonmusicで、おすすめされるECMレーベルの静かでモダンなジャズをランダムに聴いています。ECMには、読書をするにも睡眠導入にもとても相応しいアルバムが豊富にそろっていて、有能なレーベルだと思います。

思い返せば、50年くらい前に(1970年代当初)初めて買ったジャズのレコードもECMレーベルでした。その後、時代をさかのぼってモダンジャズの黄金期と言うべき1950年代や60年代のジャズを聞き始めました。

戦後の平和な時代に楽しい音楽を享受できた私たちは、ジャズが好きな国民でもありました。

かつて毎月発売されていたスイングジャーナルという雑誌(私も毎月買っていました)で、2001年1月号の者アンケート企画で選出された「読者が選ぶジャズ名盤ベスト100」。そのトップ3は以下のアルバムになりました。
1 「ワルツ・フォー・デビイ」 (1961年) ビル・エヴァンス
2 「カインド・オブ・ブルー」 (1959年) マイルス・デイヴィス
3 「サキソフォン・コロッサス」(1956年) ソニー・ロリンズ

この企画から20年以上たちますが、いまもあまり変わることのない人気だと思います。
かつてこの3つのアルバムについて書いた私の記事を更新して再掲しますので、このアルバムをぜひ聴いていただきたいと存じます。

 

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ワルツ・フォー・デビイ  ビル・エヴァンス

ビル・エヴァンス(p)、スコット・ラファロ(b)、ポール・モチアン(ds)
 1961年6月25日 NYヴィレッジ・ヴァンガードでライブ録音

ジャケットが上品で穏やかで、一目で「ワルツ・フォー・デビイ」と認識できる。
演奏もそれとまったく同じ印象。
世紀のビル・エヴァンストリオが、あわてず騒がず、清々しい演奏を繰り広げる。

単にこのアルバムをBGMで流しておいて、何か別のことをしていてもいいし、
彼らの演奏に集中してじっと聴き入ってもいい。
どちらでも耐えうるアルバムである。

メロディーラインがくっきりではないのに、耳に印象として残るエヴァンスのピアノ・メロディ。
冒頭の「1. マイ・フーリッシュ・ハート」「2. ワルツ・フォー・デビイ」で、すぐに聴く者の心をとらえる。

この録音の11日後に交通事故で亡くなるスコット・ラファロの、パルス信号のようなベースの演奏は、自分の死を予期していたのかと思うようなすごさ。
速くて、すごくて、うるさくないのが素晴らしい。

若い頃は、もう少しとんがっていた私は、こういうまとわりつくような質感のジャズは、あまり好きではなかった。
しかしいまは、「これもジャス」「あれもジャズ」と素直に言える広い心になってきた。

この日のヴィレッジ・ヴァンガードで、エヴァンスとラファロのインタープレイをライブで聴くことができた人たちは、心の奥底に彼らの演奏を閉じ込めたまま、幸せな余生を過ごせたことだろう。

そんな幸せなライブ演奏が、永遠に閉じ込められたアルバムである。
 

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カインド・オブ・ブルー マイルス・デイヴィス

マイルス・デイヴィス - トランペット
ジョン・コルトレーン - テナー・サックス
キャノンボール・アダレイ - アルト・サックス
ビル・エヴァンス - ピアノ
ウィントン・ケリー - ピアノ
ポール・チェンバース - ベース
ジミー・コブ - ドラム

録音 1959年2月、4月

コルトレーンのテナーサックスと、キャノンボールのアルトサックスの聞き分けが難しいが、2曲目だけ参加のウィントン・ケリーは、ブルージーでファンキーでとても楽しいが、ビル・エヴァンスのピアノは、それとは明らかにスタイルもステージも違っている。

そのエヴァンスのピアノが、録音された1959年では考えられないほど、このアルバムを新しいスタイルに仕上げている。

その新しさに、マイルスはぞっこんだったようで、すでにマイルスのグループを抜けていたエヴァンスを呼んで、このアルバムを制作したようだ。

エヴァンスはこのアルバムのライナーノーツも執筆していて、
There is a Japanese visual art in which the artist is forced to be spontaneous.
という書き出しにはっとし、ネットでこのノーツの訳を探した。

彼は、自分たちの音楽を日本の水墨画の作家とその技法に例えて、「白い和紙に命がけで線を描くように、頭の中に生まれた着想を瞬時に無意識に自然に演奏するために、特別な鍛錬が必要なのだ」と書いている。

どの曲も、事前に取り交わされた約束通りに進行するユニゾンの部分は、モノトーンの雰囲気がある。
即興演奏に移ると、各人は身を低くした、しかし変幻自在なステップで聴くものを楽しませる。
まったく波立たない湖面をすべる船のような、束縛されない自由さに録音から60年以上経っても斬新さがある。

私は60年代後半のマイルスからさかのぼって、つまり、チック・コリアウェイン・ショーターなどがいた第二期黄金クインテット時代から、さかのぼってマイルスを丁寧に聴いてみた。本アルバムで大きな新しいスタイルが音楽シーンに生まれたと実感できる、そこまでして、ようやくこの不思議なアルバムの神髄に近づけたと実感できる。

この斬新さがクール・ジャズなる由縁なのだろうか、ジャズなのにことのほか人気があることに、ほんとに皆これが好きなのだろうかと、何度聴いても驚く。

ちなみに、2003年、ローリング・ストーン誌が選出した「オールタイム・グレイテスト・アルバム500」で、「カインドオブ・ブルー」は、ジャンルを超えたすべてのアルバム500の12位にランク・インしている。

1.Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band The Beatles
2.Pet Sounds Beach Boys
3.Revolver The Beatles
4.Highway 61 Revisited Bob Dylan
5.Rubber Soul The Beatles
6.What's Going On Marvin Gaye
7.Exile on Main Street The Rolling Stones
8.London Calling The Clash
9.Blonde on Blonde Bob Dylan
10.The White Album The Beatles
11.The Sun Sessions Elvis Presley
12.Kind of Blue Miles Davis

 

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サキソフォン・コロッサス  ソニー・ロリンズ

ソニー・ロリンズ (ts)
トミー・フラナガン (p)
ダグ・ワトキンス (b)
マックス・ローチ (ds)

1956年6月録音

1曲目の「セント・トーマス」の冒頭だけ聞くと、このCDはカリプソアルバムかい?と、勘違いしてしまいそうなのんきさ。
しばらく聴いていると、ロリンズの素朴な即興演奏になって、ああこれはまごうことなきジャズアルバムだと納得。

2曲目の「ユー・ドント・ノウ・ホワット・ラヴ・イズ」が始まると、サム・テイラーのテナー・サックスによるムード音楽アルバムかい?と、勘違いしてしまいそうなセクシーさ。
しばらく聴いていると、ロリンズのサックスは情緒たっぷりのスローバラードなうっとりジャズ演奏になってくる。

3曲目の「ストロード・ロード」からは、どこをどう切ってもヴィヴィッドなジャズアルバムに落ち着く。
ソニー・ロリンズのテナーが小休止する間に、トミー・フラナガン、ダグ・ワトキンス、マックス・ローチのピアノ・トリオが独立路線で楽しませてくれる。

マックス・ローチは、少しデリカシーに欠けるドラミングだと私は思うのだが、その分、フラナガンの繊細で上質な絹のような演奏が、引き立つというもの。

いまも健在のロリンズ(91)の「サキコロ」を聴かずして何を聴けというのだろう。