複数の週刊誌の書評にあった「ルーティーンズ」。グリーン単色の表紙がかえって目立っていて、書評は読まずに本書を読もうと思った一冊。
著者の長嶋有が何歳で男なのか女なのかもまったく知らずに読み始めたら、これはエッセイなのか小説なのかも判らないまま読み進めていった。小説だったのだが。
本書には、もうすぐ3歳になる女の子の両親、夫が小説家で妻が漫画家ファミリーの日常風景の短編が2つ「願いのコリブリ、ロレックス」「ルーティーンズ」で構成されている。
日常風景といっても、2021年のことだからコロナ禍の真只中の生活が描かれていて、保育園が休みになった娘ちゃんの世話をさりげなく夫婦が協力している。
私も興味があったプジョーのコンパクトな自転車コリブリや、まったく惹かれないロレックスや、わが家も夫婦で楽しんだ「愛の不時着」や、細かい家事や家庭保育などが大きな場所を取ることなく小道具的に登場する。
章ごとに父親(俺)と母親(私)の一人称で書き分けられていて、それぞれの立ち位置が面白い。でも書き分けが不要なほど、二人は分かり合っている感じがほのぼのとする。きっと著者の暮しと等身大のエピソードがさらっと折り込まれているのだろう。
なかなかに子育てを伴った暮らしは大変なのだが、ルーティーンをサクッとこなす生活がサラッと描かれていて読み手に「もたれてこない」ところがいい感じなのだ。
決してスマートじゃないのだけれど、こういう風にまじめに暮らしたいと思わせるところにも共感できる。
読了後に著者長嶋有のことを調べた。
2002年に「猛スピードで母は」(このタイトルの小説は覚えがある)で芥川賞を受賞した著者は、2007年に第1回大江健三郎賞(「夕子ちゃんの近道」)、2016年に谷崎潤一郎賞(「三の隣は五号室」)も受賞しているキャリアの持ち主で、ブルボン小林のペンネームで「たまむすび」(TBSラジオ)に週一レギュラーも持っているとのこと。