しあわせの径~本とアートと音楽と

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万城目学の「八月の御所グラウンド」に胸が熱くなりました

八月の御所グラウンド   万城目学   文藝春秋

第170回(2023年下半期)の直木賞を受賞した、万城目学の「八月の御所グラウンド」を読みました。

本書には「十二月の都大路上下(カケ)ル」「八月の御所グラウンド」というタイトルの二編が納められています。

それぞれの篇の紹介は、
《女子全国高校駅伝――都大路ピンチランナーとして挑む、絶望的に方向音痴な女子高校生。
謎の草野球大会――借金のカタに、早朝の御所G(グラウンド)でたまひで杯に参加する羽目になった大学生。
京都で起きる、幻のような出会いが生んだドラマとは--》
と宣伝文句にあります。

万城目作品は初読みですが、「プリンセス トヨトミ」など彼のこれまでの作品は映像化もされているので、彼はいまや安定期の中堅作家の域に達しているのではないかと思っていました。

6回の候補を経て直木賞作家になったわけで、落選を重ねてきた残念賞とか文壇への貢献度も加味されての受賞かと思いきや、本書を読了してそれは大変失礼な思い違いをしていたと反省しています。

「十二月の都大路上下(カケ)ル」は、私の大好きな京都での駅伝のお話でとても楽しめました。私のような初読み読者は「はーなるほど、万城目はこういう幻想的な要素を入れる作家なのか?」という免疫ができ、二編目の「八月の御所グラウンド」を楽しむための準備運動にもなるのでした。

そして真打の「八月の御所グラウンド」を読み始めて、この「御所グラウンドでの草野球は面白いのか?楽しいのか?」という展開がしばらく続きましたが、9回を戦う野球に例えると「3回裏」あたりから面白くなってきます。

そして、頁が進んで「8回表」くらいから感動的な展開になっていきます。

ファンタジー要素のある面白い草野球でありつつ、タイトルでもある「八月」と「京都」に秘められたいくつかの要素に胸が熱くなります。

ネタバレにならないようにもう少し言うと、ある史実について、私が子どもの頃からずっと変わらず持っている「痛恨」で「残念」な気持ちをこの小説が代弁してくれていて、慰安を与えてくれていて、目頭と胸がさらに熱くなるのでした。

著者に「八月の御所グラウンド」を映像化したいと希望してきても、断ってほしいと思います。なんとなくですが、「8回から9回」が持つ重みを理解してきちんと描ける制作陣(脚本家や演出家など)がいないように思うからです。

最後の数頁に表現された主人公たち二人のセリフの重みを、多くの読者に文字を通して感じてほしいと思います。