しあわせの径~本とアートと音楽と

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小川哲の小説「君が手にするはずだった黄金について」を読みました

君が手にするはずだった黄金について  小川哲 (著)  新潮社

小川哲による直木賞受賞後初の小説「君が手にするはずだった黄金について」を読みました。

(あらすじ)
才能に焦がれる作家が、自身を主人公に描くのは「承認欲求のなれの果て」。
認められたくて、必死だったあいつを、お前は笑えるの? 青山の占い師、80億円を動かすトレーダー、ロレックス・デイトナを巻く漫画家……。著者自身を彷彿とさせる「僕」が、怪しげな人物たちと遭遇する連作短篇集。彼らはどこまで嘘をついているのか? いや、噓を物語にする「僕」は、彼らと一体何が違うというのか? いま注目を集める直木賞作家が、成功と承認を渇望する人々の虚実を描く話題作!

 

本書は、小川という小説家の一人称による日常エッセイのような短編小説集。

著者小川哲と等身大であろう主人公「小川」の創作の合間に、胡散臭い投資家やインチキ占い師や妖しい漫画家などが接触してきたり遭遇したり、とにかく周辺に出没します。

あやしい人物たちを著者が創造したものなのか、なかには実在モデルがいるのか定かではありませんが、小説家の周辺と言わずそういう人たちは確かに存在していて、東京にそういう人たちが集中しているんだろうなと思われます。

ほかに、主人公の恋人や仲の良い同級生たちやその家族なども登場して、主人公小川は小説のネタ探しの一環になるだろうと彼らと面白く濃厚に交わります。

あやしい人たちや普通の人たち、そういう人たちを小説で描いてくれると、読者は安全地帯に居ながらにして彼らを楽しめます。また何かしらの小説が読みたくなるという作家の「陰謀」にハマることにもなります。

たとえば、訳あって主人公小川はインチキな占い師に会いに行くのですが、その顛末の一部始終が興味深い進展を見せて、単純な勧善懲悪ストーリーでは終わらないところが面白いところです。

著者の「地図と拳」のようなスケール感のある大河小説とは真逆の作品群で、連作6編の小説の登場人物が緩やかにつながって、いまの日本をどこか表象している社会性も生活感もあるエピソードでありました。読みやすいのですが、いろいろ深くて心地よい圧を感じることができます。

小川の本棚からあふれ出る、古今東西の数々の名作と作家名だけでも、楽しく酔うこともできるのでした。