N/A 年森 瑛 (著) 文藝春秋
年森瑛(としもりあきら)の「N/A(エヌエー)」を読了。
もう花は散ったのですが、冷たい雨が続いてウォーキングも出来ないなか、行く春にこの本で楽しむことができました。
女子高のクラスメートから「松井様」と呼ばれる王子様然とした、しかしちょっと問題のある女子高生松井まどか。
激ヤセしていれば生理が来ないからと、あまり食べない生活を続けていて、同居していない祖母や家族などに心配をかけています。
親友や恋人ではない誰かとの「かけがえのない他人同士の関係」に憧れていた高校生のまどかに、突如、教育実習生に来たうみちゃんが大人の恋愛関係に誘ってきて女同士のお試し期間に入ってしばらくしたところから、この短い物語は始まります。
まどかの一人称による語りは、目の前に女子高の友達や先生や三世代にわたる家族が目の前にある狭い世界なのですが、それなのにいまの社会を濃縮している気がします。
女子高校生の日常にさえ、というかいろんなことに鋭敏な女子高生だからか、忖度を要求させる窮屈なさまざまな問題が隣り合わせにあることが盛り込まれています。
まどかは自分も含めた「少数派」に思いを馳せるのですが、それは著者年森の視界の広さと深い問題意識に依るところが大きいのかなと思わせます。
本作がデビュー作で、女性であること以外はよく判らない著者なのですが、何ものにも捉われないし属さない、まさにN/Aみたいな感性が厳しくて鮮やかなのでした。
本作は、第127回文學界の新人賞受賞作でした。選考委員は、青山七恵、東浩紀、金原ひとみ、長嶋有、中村文則、村田沙耶香。
また、年初の芥川賞候補に続いて、5月に選考される第36回三島由紀夫賞の候補作にも選ばれました。
気に入った作品に向けてのいつもの言葉で恐縮ですが、世の老若男女に広く読まれることを願うものであります。